ながさきプレスWEBマガジン

  • Vol.17 草野商店の竹線香

     子どもの頃、お盆の楽しみといえばお墓での花火だった。だんだんと暮れゆく夏の夜、墓を照らす提灯の下で家族や親戚と賑やかに過ごす時間は、子どもながらにワクワクするものだった。それが長崎市独自の風習だと知ったのは随分後のことで、同時に墓参りに欠かせない“竹線香”もまた、長崎市ならではのものだと知った。

     龍馬ゆかりの「亀山社中」のほど近く。猫がのんびりと寝そべる路地裏にあるのが、日本で唯一の竹線香の製造元〈草野商店〉だ。作業場をのぞくと、心がほっと落ち着くような、懐かしい香りが鼻をかすめる。別名“中国線香”とも呼ばれるとおり、元は中国の文化である竹線香。故人への想いをのせた煙が、高く、長く、天に届くようにと、一般的な線香よりも太いことが特徴だ。

     江戸時代、日本で唯一海外に開かれていた長崎市には、多くの中国人―華僑の人々が暮らしていた。最盛期には市内の人口の約6人に1人が華僑だったほどで、竹線香そのものはその頃から長崎で見られていたと思われる。日本人にも広く使われるようになったのは、〈草野商店〉の創業者・草野力松氏が竹線香づくりを始めてから。力松氏は戦前、中国で雑貨の卸売業を営んでおり、戦後長崎へ帰郷。昭和23年、独学で竹線香をつくり始めたそうだ。

     竹線香の原料は、芯となる“竹ひご”と“杉粉”、そして海藻を煮詰めて接着材代わりに使う“ふのり”のみ。福岡県・八女市で採れる杉の葉を、専用の水車で挽いて粉末状にするという杉粉は、230ミクロンというキメの細かさだ。その杉粉を、ふのりを塗った竹ひごにつけ、天日で乾燥。同じ工程をもう一度繰り返して杉粉を二度づけし、ふのりで表面をコーティングして仕上げる。最後に持ち手を赤く色づけして完成だ。竹ひごに均等に粉をつけるのは至難の技。ふと見上げた作業場の天井の、梁に積もった杉粉の厚みが、この道30年の3代目・敏明さんの竹線香づくりの歴史を物語っていた。香料や保存料が添加された安価な品が出回る時代にあって、自然素材のみでつくる伝統的な竹線香を守る敏明さん。故人に手向けるにふさわしい、想いのこもった竹線香がここにある。

    草野商店
    「さるく見聞館」にも指定されるお店は、随時見学可能。お香のように使える「ミニ線香」などの商品もあり。「竹線香」1袋150円
    長崎市伊良林2-9-11 TEL:095-823-0927 8:00~17:00 雨天時休 Pなし

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