ながさきプレスWEBマガジン

  • Vol.18 城谷耕生さんのうつわ〈Rim〉

    日本人の食卓に合う、うつわ

     いま、日本の食卓は、さながら“世界の食卓”だ。和食、洋食、中華、果てはエスニック料理まで。私たちは日々、ごく当たり前に、様々な国の料理を楽しんでいる。

     そんな現代の日本人の“ふつう”の食卓で、一番使いやすい食器とはどんなものか―〈Rim〉のデザインにあたり、デザイナー・城谷耕生さんの着想はそこから始まった。最初に取り掛かったのは、スケッチでもかたちづくりでも無く、うつわと料理の関係をさぐる“分析”。みそ汁には?カレーには?煮物には?パスタには?…そうやって、私たちが日常的に食す数百というレシピに合う食器を、ひとつ一つ検証し、チャートにまとめていった。すると、プレートとボウル、2つの形状のサイズ違いがあれば、ほとんどの料理に対応できるとわかり、ベースはその2つのかたちに。さらに、プレートには汁物をのせられるよう、垂直に立ち上がった縁を。“鉢”のイメージが強いボウルには、洋食器のエレガンスさを感じさせる、洋皿のような縁をつけ足した。こうして、和食器でも洋食器でもない普遍的な美しさを持ち、現代の日本人の幅広い食事に応える食器、〈Rim=縁〉が生まれた。

     いきなり“かたち”から入るのではなく、観察や分析を重ねてものづくりを行うメソッドは、城谷さんが10年程身を置いたイタリアで培ったもの。地元・小浜町に拠点を移し、約10年。イタリア的なデザイン思考で、日本各地の地場産業や伝統工芸の職人たちとものづくりを行いながら、城谷さんはデザインが社会に果たす役割にも、考えをめぐらせてきた。

    つかい手にも、社会にもプラスに

     〈Rim〉の産地は波佐見町。何千、何万個という規模で陶磁器を生産できる技術は、誰もが手の届く、日常使いの雑器を作り続けてきた波佐見焼の強みだ。が、同時に商品にはならない傷モノや、B級品が大量に廃棄されているのも事実。特に真っ白な白磁は、たった一粒でも、鉄粉が混じれば商品にはならない。そこで城谷さんは、あえて鉄粉を混ぜた土を使い、鉄の粒の表情も持ち味とするデザインを提案。土の開発だけで1年以上を要したが、白磁には使えない土を活かし、さらに廃棄となる傷モノを減らすことのできる、環境にも、つくり手にも配慮したデザインのうつわが生まれたのだ。

     売れることだけを目的とした商業的なデザインではなく、つかい手の暮らしをより楽しく豊かにし、社会にもプラスとなるデザインがしたい、と語る城谷さん。その言葉に嘘の無い誠実な仕事が、私たちの日々の食卓をやさしく彩ってくれる。

    城谷 耕生 Shirotani Kosei
    1968年雲仙市生まれ。91年渡伊後、ミラノにてデザイナーとして活躍。2002年、雲仙市に拠点を移しSTUDIO SHIROTANIを設立。

    【刈水庵】 (商品の購入はこちらで)
    雲仙市小浜町北本町1011 TEL:0957-74-2010
    10:00~17:00 水曜休 Pなし
    http://www.koseishirotani.com/

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