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  • ドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」インタビュー

    東彼杵郡川棚町、こうばる地区の住人の生活と石木ダム問題にスポットを当てたドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」の特別先行試写会が、1/21(日)に長崎チトセピアホールで開催。イベント終了後に山田英治監督と、イベントに出演されたいとうせいこうさんに話を伺いました。

     

    「ほたるの川のまもりびと」チラシ

    ・ 先行試写会イベントの感想を教えてください

     

    山田英治監督(以下Y):僕は東京の人間で、里山の暮らしの素敵さを伝えようと映画を撮っていたんですけど、「蛍がキレイ」とか「イノシシ可愛い」とか、僕が素敵だなっと思ったものに対して、地元・長崎のみなさんも共感していただけたのが嬉しかったですね。「こうばるの暮らし」が、九州あるいは長崎エリアでも魅力として伝わるんだなっていうのがすごい良かった。それだけに、「そこがなくなってしまうかもしれない」という不条理があるということも、伝えることができたと思います。自信を持ったというか、これをもっとより九州の人・長崎の人に伝えたいと深く思える試写会でした。

     

    いとうせいこう(以下I):この映画は、決して押しつけがましくない、人・人間の暮らしをきちんと撮ったものです。その魅力がストレートに伝わって、「なぜこの人たちが苦しまなければいけないのか」っていうところまで踏み込んだ部分を、お客さんたちに感じてもらえたんだなと。その後の質疑応答でも、みなさんから手が挙がっていろんな意見が出てきたほど。長崎県の人たちって、討論っていうか質疑応答が非常に上手だなって、びっくりしました。

     

    Y:いや~ホントに!いい試写会でしたよね。

    特別先行試写会の後には、イベント参加者とのトークセッションも行われました
    特別先行試写会の後には、イベント参加者とのトークセッションも行われました
    参加者の多くが手を挙げ、映画を通じてそれぞれが感じた想いや意見などを交わしました
    参加者の多くが手を挙げ、映画を通じてそれぞれが感じた想いや意見などを交わしました

    ・ この問題を取り上げたきっかけは?

     

    Y:僕は「田舎暮らししたい派」なんです。僕は初めて来たとき、「これは映画として成立する魅力的なネタだ」って思ったんですよね。都会に住む人たちが「こうばる」という場所を素敵って思ってもらいながら、でも同時に不条理があるっていうことが。豊かで面白い地域性、僕らが「田舎暮らししたいな」って憧れる生活がここにはあって、東京はもちろん、全国に広がるポテンシャルがあるんじゃないかと思ったんです。

     

    I:極めて日本らしい風景がありますよね。失われてしまった日本がまだあってくれたんだ、よかったなあって。それを壊してほしくないって思うことは、みんな素直に感じることじゃないかな。そして、こうばるの人たちの明るさに、救われた気持ちになるんですよね。本当に苦しい戦いを余儀なくされて、へこたれても不思議はないんだけど、持ち前の明るさで自分たちを励ましている姿をを見れば……。僕らの方が暗い気持ちになってしまっていて、逆に励まされちゃいますね。

    タレントのいとうせいこうさんは、この映画に賛同し、長崎でのイベントにも足を運んでくれました
    タレントのいとうせいこうさんは、この映画に賛同し、長崎でのイベントにも足を運んでくれました
    アウトドアアパレルブランド「パタゴニア」の辻井隆行 日本支社長もイベントに参加
    アウトドアアパレルブランド「パタゴニア」の辻井隆行 日本支社長もイベントに参加

    ・ 確かに劇中も笑い声が多かったですよね。シビアな問題に立たされてるのに……。

     

    Y:たくさんいる支援者の方も「活動・運動に関わると元気をもらえる」って言うんですよね。「かわいそうだから助けたい」と思って来るんじゃなくて、元気もらいに来てるっていう。僕らは撮影しに来てるんですけど、どこかで癒やされてるんですよね。毎回すごくリフレッシュして帰ってましたね。

     

    I:自然ってそういう力があるのかな、人間らしく生きていると。だから自然と共感を呼んでいくでしょうか。

     

    Y:だから、まずは会いに来てほしいっていうのがあって……僕がそうだったように。地元の人たちと家族みたいに交流して、今は「もうひとつの親戚」ができた気分になっているんですよ、勝手に。みなさんがそういう感じになったらとても素敵ですし、運動が広がっていく事でもあるんで、ぜひ会いに行ってほしいですね。

     

    I:命の種類が普通じゃないぐらいある。濃いですよね。そこに入って行ったら、五感で「ここは守んなきゃ」って思わせちゃう。SNSで広めてもらうことも大事だけど、やっぱりその場に行くっていうのは全然違いますから。SNSを使いながら映画を観て、そして実際に足を運んでみるのがいいかもですね。体験としては、どんどん五感に近づいていって、なんだか良いですね。

    イベント後、山田監督といとうせいこうさんに、この映画についてのお話を聞くことができました
    イベント後、山田監督といとうせいこうさんに、この映画についてのお話を聞くことができました
    映画内でも登場する、こうばる地区のみなさんも登壇。石木ダム問題の現状と想いを語った
    映画内でも登場する、こうばる地区のみなさんも登壇。石木ダム問題の現状と想いを語った

    ・ 想像することから、だんだんリアルに近づいていく感じですか?

     

    I:そう。そこで初めて、賛成か反対かって考えてもらって構わないんですよ。最初から決めてかかる必要もなくて。「本当はどうなんだろう」って思ってもらうことが、きっと長崎を良くするきっかけになるんじゃないですか。ひいてはそれが日本を良くすることに広がっていくっていう…。日本が変わっていくきっかけを、ひょっとしたらこの場所が持ってるかもしれない。長崎県が持ってる可能性ですね。

     

    ・今後は東京で上映されるんですか?

     

    Y:そうですね。6月に、渋谷にある〈ユーロスペース〉で上映が決まっています。その後は、全国あるいは自主上映など、いろんな形で見せていきたいなと思っています。

     

    I:東京の文化を動かしていってる場所なんで、ユーロスペースは。良いところですよね。ここから火がついてくるんじゃないかなと思います。でもその前に、長崎のや九州の人は先行して見れるんですよね。

     

    Y:まだまだ劇場は決まってませんが(1/22時点)、九州では先行で公開されるのは可能となっています。

     

    I:九州の劇場の皆さんは手を挙げてほしいですね。ぜひぜひ皆さんでリクエストしていただきたい。素晴らしい映画なので。

     

    ・最後に改めて、どういったところを見てほしいですか?

     

    Y:長崎県民すべての人に関わることですよね。税金が使われれていますから。おそらく、何となくでも「石木ダム」の話は一度は聞いたことがあるんじゃないかと思います。だけども、そこでどんな人が住み、どのような気持ちで動き、どんな事実が背景にあるのかって、わかりづらいですよね。それが知る窓口になれる映画になっています。「石木ダムって聞いたことがあるけど、それってなんだろうな」と、ちょっとでも思ったことがある方は、ぜひこの映画を観て、そしてこうばる地区に足を運んでもらえたらなと思います。

     

    I:この映画は長崎発のもの。長崎発のカルチャーを長崎の人たちが支えて、全国に向けて発信していくくらいの気持ちでいただければ。そのことが、石木ダムの問題に良い結果をもたらせば、多くの人の成功体験になっていくと思うんです。それがまた、日本を変えていく可能性になっていく……。その輪を作るためにも、まず長崎の人たちに見ていただきたいですね。

     

    ドキュメンタリー映画『ほたるの川のまもりびと』

    プロデューサー:山田英治/辻井隆行/江口耕三

    監督:山田英治 配給:ぶんぶんフィルムズ

    初夏公開予定

    「ほたるの川のまもりびと」一場面
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