ながさきプレス

Vol.32 富田一彦さんのデザイン

暮らしに楽しさや、喜びを

 来年1月。長崎県美術館で、『卜ミタリアー富田一彦の世界』という展覧会が開催される。『トミタリア』とは“トミタ”と“イタリア”を組み合わせた造語。長崎県出身で、20年以上イタリアを拠点に活動してきたデザイナー・富田一彦さんのこれまでの仕事が、一同に揃う展覧会だ。

 富田さんのデザインは、食器や家具などの日用品からインテリア、果ては建築まで多岐に渡る。千葉大学を卒業後、ロンドンへ留学。その後イタリア・ミラノにスタジオを設立し、これまでに17ヶ国120都市、約600の生産業者とコラボレーションしながら、まさに“世界を股にかけ”創作活動を行ってきた。…などというと、一体どんな巨匠かと緊張してしまうが、実際の富田さんはどんな相手にも「チャオ」とおちゃめに接してくれる、とてもフレンドリーな方である。

 そんな人柄が自ずと滲み出るのだろうか。富田さんの生み出すモノたちもまたユーモアに満ち、愛嬌に溢れている。料理を盛るお皿に『MORODE(もろうで)』、鍋敷きに『SICAMBA(しかんば)』…だなんて、長崎弁をもじった名前に思わずクスッと笑う。

 イタリアのcovo社から販売され、波佐見焼で作られているテーブルウェアシリーズ『MILMIL(ミルミル)』(上写真)の名には、「みるみる世界の家庭に…」という想いが。このシリーズは「永遠の命」がテーマだそうで、星々をおおうたくましい緑を表す“力ラクサ紋”や、水の循環を表す“波に雨紋”、ゲノム(遺伝子)の配列をイメージした“乱れ縞紋”など、命の営みから想起される6種の紋様があしらわれている。うつわやカップにちょこんとついた足も、どこか有機的で愛らしい。

 ユニークな名前や、込められたストーリーについて先にふれてしまったが、モノとしての美しさ…富田さんの言葉を借りれば、「絵としての美しさ」も、無論、大前提として考え抜かれている。波佐見焼や南部鉄器(岩手県)、山中漆器(石川県)、京都金襴など…富田さんは日本各地の伝統産業と手を組み、さまざまな作品を発表しているが、どんな素材を用いるにせよ、まずは自らの手で、力タチを生み出してゆくそうだ。食器であれ、家具であれ、自ら木を削ってモデル(模型)を作り、人のからだに心地よく馴染み、かつ、使いやすく美しいフォルムの着地点を探ってゆく。そこには工学的な知識も欠かせないばかりか、それぞれの素材の特性や、それを応用した技法など、化学的知識までも求められる。モノひとつに込める歴史や文化、背景や物語。それを表現するための美的感覚や技術…。富田さんがデザインを「知的活動の集大成」と語るのも頷ける。

 ただ、実際に富田さんの生み出したモノに接するとき、デザインにまつわるここまでの“論”や“説明”は、もはや不要かもしれない。

 なぜなら、見て、ふれて、使って…と、共に生活をする中で、思わず笑みがこぼれたり、“楽しいな”と思えたとき。ふと置かれたカップ一つ、お皿一枚の美しさに“ハッ”としたとき…。あなたはすでに、“より豊かな暮らしを届けたい”と願う『卜ミタリア』の心を、直感で、肌で、感じているのだから。

富田一彦 とみたかずひこ http://www.tomitadesign.com/

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