ながさきプレスWEBマガジン

  • 第13回 「島原で薬草三昧の旅」

    乙女は薬草に憧れて、島原の薬園を旅す…

     学生の頃、真剣に「魔女」に憧れたことがある。といっても、黒い服に身を包み、とんがり帽子をかぶって、魔法を唱えたい…なんて願望を持っていたわけではない(さすがにね)。そうではなく、庭でハーブや薬木を育て、その特性や薬効を知り尽くし、「おなかが痛いの?じゃあこれね」なんて言いながら、薬を調合できるような人に憧れていたのだ。だって何だか、すごくロマンチックでしょう?キンモクセイを水に沈めて、香水のまねごとをしたり、オシロイバナの実を集めて化粧のお粉を作ったり…思えば小さいころから、そんな遊びが好きだった。スカートを履くでも、髪をのばすでもなく、道端に生えた草花の名を知っている女の子こそ、最高に「乙女チック」だと信じてきた。
     そしてつい最近、島原に「旧島原藩薬園跡」なるものがあると知った。何でも、日本三大薬園跡なのだとか。おまけに「しまばら薬草ウィーク」なるものまで、開催しているという…!こ、これは行かずにはいられない。というわけで今回は、薬草を見て、食べて、薬草で石けんを作り、薬草の風呂に浸る…という、薬草三昧の旅をお届けする。 宇土さん  今年の2月末から3月初めにかけて開催された、「しまばら薬草ウィーク」。イベント期間中は、島原城や湧水館、湧水庭園で有名な四明荘など、市内各所で薬草を使ったスイーツや食品が販売されたり、薬草園で石けんづくり体験が楽しめたり。「薬草」を通して島原を盛り上げようという試みだ。
     もともと「旧島原藩薬園跡」という、全国でも珍しい史跡を持つ島原。「跡」とあるから、てっきり遺構が残っているだけだと思っていたが、実は現在でも約250種程の薬草・薬木を、広い園内で観察することができる。今回薬園を案内してくださったのは、島原市教育委員会の宇土さん。「この薬園は江戸時代末期・幕末頃、シーボルトの弟子で、島原藩医でもあった賀来佐之(かくすけゆき)という人が中心となって、作られたんですよ」と、その歴史を語りながら案内してくれた。

    往時の姿を想いつつ、薬園を散策

     雲仙岳のふもとに位置する薬園。この季節は、春の訪れとともに一斉に芽吹きだした草花を眺めながら、ゆったり散策をするだけでも気持ちが良い。「薬草」というとなんだか難しそうだが、ヨモギやタンポポ、オオバコなど、普段道端で見かける、「雑草」と呼ばれるような草花も多い。江戸時代から残る石垣や、貯水槽などの遺構を見つめながら宇土さんが話す。「島原の藩医は、藩の要人のほか、一般の領民たちの診療もしていたようです。ですが、庶民にとって薬は高価なもの。薬問屋にお金を払うこともままならず、ならば、と賀来佐之たちは藩の命を受け、自分たちで薬草の栽培を始めました。 せっけん作り といっても財政状況はかなり厳しかったようで、薬草以外にイモなども育て、現金収入にしていたようです。 結局明治に入り藩が解体されると薬園も廃止され、薬園が機能していたのはわずか20年程でした」。そんな話を聞きながら薬園を見回すと、何だか少し切ない気持ちに。ひっぱくした財政の中でも薬園を作り、庶民のために奔走した藩医たちの姿が目に浮かぶようだ。

    作って、食べて、薬草三昧

     ひと通り散策を終え、薬園入り口にある小屋へ。薬草ウィーク中に開催されていた、「石けんづくり体験」に参加するためだ。 せっけん 「今日作る石けんはウイキョウの石けんです」と、石けんづくりの先生。「ウイキョウ」と言われてもわからなかったが、その草を見て「あ、これってよく洋食の皿に乗ってる…」とその正体に気づく。「フェンネル」だ。薬草石けんは、好みの薬草を乾燥させ、煮出したエキスと、純石けんの粉、ハチミツ、ホホバ油、お好みでアロマオイルを練り合わせてつくる。混ぜて、型につめるだけなので実に簡単!一週間ほど乾燥させれば完成だ。薬草によって匂いや効能も変わるが、ウイキョウ石けんはなかなかの「薬草っぽい」香り。使ってみるのが楽しみだ。 タンポポ焼  その後は薬園を離れ、市内各所のイベントスポットへ。四明荘ではハトムギ茶と、島原農業高校の学生さんが作ったオオバコ入りのカップケーキをいただき、湧水館ではムラサキイモ(これも薬草に入るらしい)入りのろくべえや、オオバコなどが使われた三色かんざらしをいただいた。いやあ、一度にこれだけ薬草を食べれば、カラダも何かしらの反応を見せてくれそうである。島原のお菓子屋〈グランパ〉さんが作る、ヨモギとアシタバたっぷりのロールケーキ「しまジオロール」やら、様々な薬草商品を手がける〈元気工房タンポポ〉さんの、メナモミ入りアイス「大人アイス」やら…薬草なら食べるたびに健康になれる気がして、ダイエットなど気にせず、もりもり食べた。
     極めつけは、同じく元気工房タンポポさんが作る「タンポポ焼」!もう、見るからにタンポポたっぷり!キャベツの代わりにタンポポの葉がどっさり使われた、お好み焼きのようなものなのだが、これがうまかった!ちょっぴりひるむほど、グリーンな生地なのだが、予想していた苦みやクセは全く感じず、むしろ、粉もの特有のドッカリ感がない、さっぱりとした味わいなのだ。工房のアドバイザーを手がける大場さんは、薬草パワーのおかげなのかお肌ツヤツヤ。「薬草は誰でも簡単に手に入れられて、食べれば食べるほど健康になれるのよ。自然の力で健康になれたら素敵よね!」と語る姿がイキイキとしていた。 元気工房タンポポさんでは、薬草ウィークに関係なくいつでも薬草を使った料理やスイーツをいただけるので、ぜひ訪ねてみてほしい。

    最後は薬草湯に浸かり、心もからだもゆったり

     最後に訪れたのは、島原商店街にある温泉〈ゆとろぎの湯〉。薬草たっぷりの健康湯に浸かり、本日の最後のデトックスタイムだ。見知らぬおばあちゃんと、ローズマリーがたっぷり入った袋をもみもみしながら、そのエキスと香りを堪能する。
     決して華やかさはない。むしろ地味かもしれないが、何とも味わい深~い魅力を持つ薬草の世界。今年の薬草ウィークは終わったが、薬園はこれからの季節が盛り。野に生える草花に、のんびりと目を向けるような旅もいいだろう。

    最後は薬草湯に浸かり、心もからだもゆったり

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