ながさきプレスWEBマガジン

  • Vol.26 唐あくちまき

    長崎ならではの、節句菓子

     端午の節句が近づくと、長崎の和菓子屋さんや饅頭屋さんの店先に「唐あくちまき」が並び始める。「鯉菓子」のような見た目の華やかさはないが、端午の節句に欠かせないものとして古くから受け継がれてきた。そもそも、「粽(ちまき)」のルーツは中国にあり、その誕生にはこんな故事がある。

     ―今からおよそ2,300年前。中国に屈原(くつげん)という名の詩人がいた。屈原は国王の側近として仕え、人々に慕われていたが、陰謀により失脚。その後、国の行く末に失望した屈原は、ある5月5日、汨羅(べきら)という川に身を投げてしまう。屈原の死を悼み、人々は川に供物を投げ入れて供養したが、供物は屈原のもとに届く前に、悪い龍に盗まれる。そこでもち米を、龍が苦手な楝樹(れんじゅ)の葉で包み、邪気を払う五色の糸で縛ってから川へ投げ入れると、無事屈原のもとへ届くようになった―これがちまきの始まりで、その風習が日本にも伝わったとされる。(諸説あり)

     中でも、長崎の郷土料理として伝わるのが、「唐あくちまき」、「長崎ちまき」と呼ばれる、作り方も形も独特のちまき。もち米を「唐あく」と呼ばれるアルカリ性の灰汁を溶かした水に浸けこみ、それを細長いサラシの袋に詰めて煮上げる。食べる際は袋を切り開いてから、糸でちまきを切り分け、砂糖やきな粉をまぶしていただくというもので、もち米のつぶ感がほんのり残った飴色のちまきは、もっちりとした弾力と、唐あく独特の風味がクセになる。唐あくはちゃんぽん麺にも用いられており(ちまき用と麺用で若干異なる)、中国と縁の深い、長崎らしい食文化と言えよう。

     今回、唐あくちまきづくりを見せていただいたのは、新大工にある和菓子店〈千寿庵長崎屋〉。二代目・三代目の井上さん親子二人で、菓子づくりを行っている。5月は唐あくちまきに鯉菓子、柏もちなど、節句の菓子づくりで忙しい。もちろん菓子は全て手づくりだが、ちまきを入れる袋も、自分たちで縫っているのだと聞き、驚いた。

     〈長崎屋〉は昭和4年創業で、長崎の中では、特別古い店というわけではない。しかし、カステラなどと共に南蛮人によって伝えられた飴細工の菓子「有平糖(あるへいとう)」など、他ではあまり作られなくなった長崎ならではの菓子を、今に伝えている。三代目の若旦那は、大学卒業後、すぐに〈長崎屋〉を継ぐことを望んだそうだが、二代目であるお父様に断られ、一度は県外で働いた。しかしその後も店を継ぎたいという想いを伝え続け、3度目の申し出でやっと帰郷。三代目として菓子を作り始めて、今年で11年目だ。伝統的な菓子や、四季折々の茶菓子などを作り続ける一方で、「他とは違うことにも挑戦したい」と若旦那。「パイ大福」といったユニークな和洋菓子や、可愛らしいパッケージの「口砂香」など、新しい商品づくりにも意欲的だ。新大工で愛される和菓子店は、伝統を守りながらも新鮮な切り口で、和菓子の魅力を伝えている。

     端午の節句のお菓子ひとつにも、脈々と流れる長崎の歴史と文化。知れば一層深くなるその味わいを、楽しんでほしい。

    千寿庵 長崎屋 せんじゅあんながさきや
    長崎市新大工町4-10 TEL:095-822-0543
    9:00~18:30 日曜休 Pなし http://www.s-nagasakiya.com/
    「唐あくちまき」550円

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