ながさきプレスWEBマガジン

  • Vol.22 佐世保独楽

    お正月の、風物詩

     ♪お正月には凧あげて、独楽をまわして遊びましょう―童謡にも歌われる、お正月の風物詩「独楽まわし」。昔ほどは見られなくなった風景だが、昔ながらの独楽を子どもたちがまわして遊ぶ様子は、日本人の心に響くものがある。

     佐世保に古くから伝わる郷土玩具、「佐世保独楽」。コロンとしたどんぐりのような形(らっきょう型ともいわれる)が愛らしく、長くまわして競ったり、独楽同士をぶつあったり(喧嘩独楽)して遊ばれてきた。どれだけ長く回せるかを競う時には「息長勝問勝競べ(いきながしょうもんしょうくらべ)」という掛け声で独楽をまわすのが、佐世保流。独楽を彩る青(緑)、赤、黄、白(生地の色)、黒の5色は中国の「陰陽五行説」に影響を受けたものといわれている。

     そんな佐世保独楽を、現在唯一専業でつくっているのが〈佐世保独楽本舗〉だ。独楽づくりを行うのは、3代目の山本貞右衛門さんご夫婦。材料となる“マテバシイ”の木の製材から加工、着彩までを一手に担っている。マテバシイとは、いわゆるドングリの木のこと。かつて松浦藩が飢饉などに備える救荒食(きゅうこうしょく)として、植樹を奨励したという歴史背景があり、県北部に広く分布している。独楽に用いる木は、硬すぎればすぐに割れ、柔らかすぎても独楽同士を跳ね飛ばせない。その点、マテバシイは独楽づくりに適しており、また建築資材には不向きであるため、“遊び”である独楽の材料になったそうだ。

     木工用のろくろに木材を取り付ける作業は、中心の軸がぶれないよう慎重に。独楽の形を削り出すかんななどの道具も全て手作り、オリジナルだ。ろくろで回転する木材にかんなの刃を当てると、シュルシュルと小気味良く木屑が飛び、独楽の輪郭が浮かんでくる。この道20年以上、山本さんの熟練の技が光る瞬間だ。手ざわりや目測(もくそく)で「大体、このくらいかな」とノギス(測る道具)を当てると、山本さんが予想した寸法とピタリ!「毎日しよれば、当たり前たい。職人っちゃ、そういうもんさ」と笑う。遊び道具を越え、“伝統工芸”として認められる佐世保独楽だが、山本さんの笑顔を見ると、何だかやっぱり“子どもたちのための独楽”として遺してゆきたいと思わずにはいられない。

     昔、独楽回しに使う紐は“真麻蘭(まおらん)”という植物を編んで、手作りしていた。工房の軒先には、プランターで育つ真麻蘭の実物が。「見学に来る子どもたちに、本物を見せたくてね」。子どもたちにこそ、日本が誇る文化や、伝統的なものづくりを伝えたい―そんな想いが、山本さんご夫婦の独楽づくりを支えている。

    佐世保独楽本舗 Sasebokomahonpo
    佐世保市島地町9-13 TEL:0956-22-7934

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