ながさきプレスWEBマガジン

  • 第10回 「小浜でぬくもる冬の旅
    おたっしゃん湯と小浜ちゃんぽん」

    ぬくもりを求め いざ、湯のまち小浜へ

     寒い。とても寒い。こんな寒さの時には、コタツの中でごろごろして、できるだけ外に出たくない…なんて思ってしまうけれど、あえて「えいやっ」とどこかへ行くならば、それはやっぱり温泉でしょう。日本人だもの。ひとまず小浜へ行くことにするが、旅館の貸切湯や「ほっとふっと105」の足湯では、いつもと同じだし…というわけで少し調べると、何ともレトロで魅惑的な共同温泉を見つけた。「脇浜温泉共同浴場」…通称「おたっしゃん湯」。写真で見る限り、かなり古そうだけど…でも、すごく面白そう。とりあえず着替えの下着とタオル、文庫本なんかを鞄に詰めて、長崎駅前のバスターミナルへ。ここから小浜を経由し、雲仙まで直行するバスに乗る。高速バスではないので、特別な予約は不要。気が向いたらいつでも、ふらっと行ける、ほどよい距離感も小浜のいいところだ。

    てくてく歩いて おたっしゃん湯まで

     小浜のバスターミナルには、昼前頃到着した。おたっしゃん湯までは、海岸線を右手に歩いて20分ほど。途中〈パック〉というパン屋さんで、「温泉あんぱん」105円を買った。 おんせんあんぱん 生地に小浜の温泉水が練りこまれているそうで、ほどよい塩気があんことよく合っておいしい。あんぱんをぱくつきながら、てくてくぶらぶら、歩いてゆく。たまに歩道際から立ち上る湯けむりに、からだを包まれる。これがほわんとあったかくて、何ともいえない心地。そうこうしている内に、おたっしゃん湯の近くまでやってきた。旅館〈小浜荘〉の脇の坂道を少し登ると…あったー!木造の、何ともレトロな佇まい。いや、レトロなんてものじゃない。相当な年季が入っている。うーん、素敵! おたっしゃん

    昔ながらの温泉で 極楽極楽

    わくわくしながら入口へ。ガラリと扉をあけると、番台におじいちゃんがひとり。もはやこの風景と一体化しているような感じ。大人料金150円(安い!)を払って脱衣所へ。漢数字がふられた、昔ながらの木製のロッカーに、おそらく創業当時からのものであろう泉質の説明書きや「浴客心得」なんていう注意書き。タイムスリップしたような、何ともいえないノスタルジーに溢れている。二番のロッカーに荷物を預け、いざ浴場へ。ちょうど中央に、2つの浴槽があるきりの、シンプルな温泉だ。シャワーもなければ、サウナもないが、たまにはこんな温泉もいい。
    湯船のそこには、綺麗なエメラルドグリーン色のタイルが敷き詰められていて、無色透明のお湯が少し緑がかって見える。きれい。ぺろりとなめるとしょっぱかった。「食塩泉」だという。いいお湯だ。ふと天井を見上げると、裸電球がひとつ。 湯けむりにくるまれる・・・ 夜は一体、どんな雰囲気なのだろう。そんなことをぼんやり思いながら、常連のおばあちゃんたちに紛れて、極楽極楽…。帰り際、番台のおじいちゃんとお話。「昔は3銭で入られたとよ」と、ニッコリ古い看板を指差しながら教えてくれた。昭和12年から続く、小浜唯一の共同浴場。かれこれ80年近く、この場所を守っておられるそうだ。昨今では、県の「まちづくり景観資産」にも選定され、老朽化の進んだ部分を、一部改修したとのこと。どうぞ、これからもお元気で、長く続けられてくださいね、と別れの挨拶をかわした。

    小浜ちゃんぽんで おなかもぽかぽかに

     おたっしゃん湯を出て、さらに海を右手に10分ほど歩き、「入潮」という食事処へ。温泉であたたまった後は、名物「小浜ちゃんぽん」でおなかもあたたまろうという作戦だ。せっかくだからと、「小浜ちゃんぽん」の立役者である、「ちゃんぽん番長」こと林田真明さんにおともをお願いしたところ、快くご一緒してくださった。ふふふ。
     そもそもなぜ、小浜でちゃんぽんなのか。歴史的には、長崎から小浜へやってきた湯治客が伝えたものとされるが、「小浜ちゃんぽん」としての認知が広まったのはごく最近のこと。その功労者こそ、誰あろう番長・林田さんなのである。「おいはね、絶対小浜ちゃんぽんはイケる!と思ったとよ!」と、入潮さんのちゃんぽん片手に熱く語り出す番長。 小浜ちゃんぽん 透き通ったスープに、たっぷりの野菜と魚介(とくに殻つきの海老がうまい!)、そして特徴的なたまごの黄身。確かにこのちゃんぽんには、長崎のそれとはまた違う、郷土料理としての不思議な魅力がある。番長は「イケる!」と感じた自らの直感とひらめきを信じ、誰に頼まれたわけでもなく、時に冷ややかな目を向けられながらも、自らの足と胃袋で「小浜ちゃんぽんマップ」を作成!その情熱が燃やした火はじわじわと広がり、5年経った今、大手コンビニのお弁当として並ぶまでに、ブランドとしての成長を遂げたのだ。すごい、すごすぎる、番長!「小浜のまちば、元気にできたらそいでよかとですよ!」と、どこまでもまっすぐな番長の言葉に、勇気付けられるような思いがした。
     「おばま」つながりというだけで、オバマ大統領をまちおこしに使ってしまうような、(ちょっとかわいい)小浜の人たち。それが良いか悪いかはさておき、何十年も温泉を守る人あれば、ちゃんぽんに情熱を燃やす人あり…。このまちの「ぬくもり」は温泉だけでなく、まちの人の中にこそ、息づいているようだ。

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