ながさきプレス

第19回 「秋深まる、奥雲仙へ」

知られざる秘境・奥雲仙で 大自然に出会う

 朝、目が覚めて窓を開けると、少しひんやりとした、乾いた空気に身を包まれる。陽射しは柔らかな黄金色で、空は高く、すっきりと青い。ああ~っ、このままお弁当を持って、どこかへお出かけしたい!爽やかな秋晴れの朝って、どうしてこんなにもウキウキするのかしら。今度の旅は、秋を存分に味わえる自然の中にしよう…。そんな風に考えていた折、「秘境・奥雲仙」と呼ばれる場所があると知った。雲仙でさえ、自然豊かな入口さん美しい場所だというのに、〝奥〟雲仙ですとな…?その素敵すぎる響きに、期待感は最高潮!「これは行かねばっ」と、とある日曜日の朝、雲仙市国見町田代原―通称・奥雲仙へと向かった。
 奥雲仙は、日本初の国立公園である「雲仙国立公園」の一画に位置する。今回はこの奥雲仙の環境保全活動を行っている〈NPO法人奥雲仙の自然を守る会〉のみなさんに案内をしていただいた。長崎市から車を走らせること、約1時間半。周囲がどんどんと山深くなる中、木々の切れ間からパァッと、大迫力の絶景が広がった。「ここ、日本だよね?」木田さんと疑ってしまうほど、想像以上の光景にビックリ。まさに秘境、まさに奥雲仙!感動に浸っていると、〈守る会〉のみなさんが笑顔でお出迎え。さっそく散策へと繰り出した。

奥雲仙の歴史と自然のこと

 散策は、気さくなガイドで楽しませてくれる木田さん、草花に詳しい入口さんと3人で。牛さんたちがのんびり草をはむ草原の中を歩けば、もうそれだけで、心もカラダも癒されゆく感じ。「この花かわいい~!」、「このキノコ、何?」、「ヤマボウシの実がもう赤い!秋やね~」なんて話しながらの散策は何ともしあわせな時間。目はきらきら、心はうっとり、手には摘んだばかりの、宝物みたいな植物たちが増えてゆく。
 周囲の山々を指しながら、「あっちが九千部岳、こっちが吾妻岳。ここは、千々石断層の上の盆地になるとよ」と木田さん。標高600m。この盆地には昔から馬や牛が放牧され、長い年月をかけて美しいシバ草原が形成された歴史がある。草原の中には150万本のミヤマキリシマが点在し、お弁当春には爛漫と咲き誇るのだ。ところが、「ちょっと来てみんね」と木田さんに見せられたのは、雑草に覆われたミヤマキリシマの姿。実は、時代の流れと共に牛の放牧が減り、牧草地は次第に荒れ、ミヤマキリシマまでも他の草木に覆われるようになってしまったのだ。しかし、国立公園における環境保全は、人の手が入ることに厳しい制約が…。
〝放牧〟という、人の手が入ってこそ成り立ってきた奥雲仙の自然背景を知る〈守る会〉の人々は、その理解を求めながら、ミヤマキリシマの保全活動を続けてきたそうだ。「人の手が入ってこそ、守られる自然もある。昔んごと、ミヤマキリシマが綺麗に咲く田代原の風景を取り戻したいとよね~」と語り合うみなさんの姿が、胸に残った。

食べたり、つくったり、たのしい体験もいろいろ

 散策の後は、牧草地のすぐそばにあるお寺〈寿妙院〉へ。住職をつとめる尼僧・中田さんが、〈守る会〉の代表をつとめている。中に入ると、机の上には美味しそうなお弁当が!地元の野菜で作る、素朴で飾らない、お母さんたちの手づくりの味が嬉しい。中田さんは幼い頃から病弱で、20代に難病を患い、この奥雲仙の地にやってきた。自然の中で修行をし、薬草や野草など、食事からも自然の力をいただくうちに少しずつ快方へ。その経験から、自然の力の素晴らしさや、お金では買えない心の豊かさを伝えようと、寿妙院にて〈守る会〉はもちろん、グリーンツーリズムなどの活動を長年行ってきた。私も早速、体験!まずは寿妙院の入口の階段に腰掛けて、先ほど摘んできた植物を使ってのタペストリーづくり。先ほどのお弁当を作ってくださった江副さんは、柚子ごしょうづくり担当で、同じく階段に腰掛けながら、作り方を教えてくれた。青々とした柚子(これも秋の味)の皮をむくと、ふわぁっとあたりに爽やかな香りが広がる。高地はもう、すっかり秋の陽気。気持ちの良い風を感じながら手を動かすうちに、ゆっくりと日が傾いてくる。はぁ…何て贅沢で、穏やかな一日…。「ここには何にもないけれど、こんな場所でゆーっくり一日過ごすのもいいでしょう?」とみなさん。ええ、ええ、本当に!胸いっぱいで帰途についたのでした。

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