2025年9月5日公開の映画『遠い山なみの光』の完成を記念して、8月11日、長崎市内で映画のプレミア上映と舞台挨拶が開かれました。原作は、長崎出身のノーベル賞作家であるカズオ・イシグロ氏の長編デビュー作。舞台となったのは1950年代の長崎と1980年代のイギリスで、若き日の主人公・悦子を広瀬すずさんが、30年後の悦子を吉田羊さんが演じました。
第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、すでに大きな話題と関心を集める今作を一足早く鑑賞しようと、会場には、映画や俳優、原作のファンら328名の聴衆が詰めかけました。上映後の舞台挨拶では、主演の広瀬すずさん、吉田羊さん、石川慶監督の3名が登壇。割れんばかりの拍手で出迎えられました。
公開を前にして広瀬さんは「今作をまず長崎県のみなさまに見ていただけたことがすごくうれしいです」と笑顔を見せ、「ラストシーンの悦子さんの姿を見て、何かが蘇る方や、新しい気づきを得る方など、解釈はきっと人それぞれ違うと思います。さまざまな可能性が詰まった今作が、戦後80年という年に、みなさまにどんな風に届くのかが楽しみです」と話しました。
吉田さんは、「ちょうど昨年の今頃、長崎編の撮影をして、月が明けて9月からイギリスで約3週間撮影をしておりました。 1年前になりますが、その時の景色を昨日のことのように思い出します」と回顧。続けて「さまざまなテーマが重層的に流れる今作は、その人の年齢や属性、状況によって見え方が変わると思います。今日、みなさまに見ていただいて、何かしらの感情を持ち帰っていただき、ご自分の気持ちや記憶と向き合う時間を持っていただけたらうれしいです」と語りました。
石川監督も、映画制作時の「特別な思い」として「原作のイシグロさんと、長崎のみなさんに見ていただくことを考えていた」と話し、「イシグロさんが遠くロンドンから、この長崎を思いながら書かれた小説を、僕たちが作って、今、長崎のみなさんに届けられたことが、すごくうれしいです。 この映画がみなさんの物語としてこの場所から広がっていってくれると、これ以上の喜びはありません」と感慨深げに述べました。
平和公園での献花について
当日の午前中には平和公園を訪れ、献花をしたお三方。そのことに触れられると、広瀬さんは「映画を通して、戦争の記憶を自分たちも語り継いでいかなくてはいけないと実感する日々の中で、今日実際に足を運べたことはとても光栄でした」と語りました。
小学校の修学旅行で平和公園を訪れたことがある吉田さんは「自分の体は大きくなっているはずなのに、平和祈念像が小学生の頃よりさらに大きく感じました。戦後80年経ってもいまだに世界で争いが続いていることに対する長崎市民のみなさんの思いがそう見せているのでは」と表情を引き締めながら話しました。
石川監督も「今作の撮影や、今年の平和記念式典を通して、感じ方がすごく変わりました。今日実際に訪問し、ここにあの悦子がいたんだとしみじみ感じながら献花させていただきました」と思いをにじませました。
長崎の印象について
今回の来崎に合わせ、長崎の印象について尋ねられると、広瀬さんは「改めて悦子がここで生きたんだという目線で、ここにしかないものを肌で感じることができました。今になって、悦子として見落としていたものがあるんじゃないかなと不安になるほど、すごくエネルギーのある街だなと思いました」と率直な思いを明かしました。
前日に一足早く長崎入りし、市内を散策した吉田さんは「至るところに教会や、貿易で栄えた街ならではの活気づいた雰囲気があるかと思えば、こげついた建物がまだ残っていたりして……歴史と記憶が混在した唯一の街だなと感じました」と感想を述べました。
シナリオハンティングですでに長崎を訪れたことのあった石川監督は、その際「小説を読んだだけではイメージできていなかった山並みや地形、稲佐山から見下ろす景色を目の当たりにし、こういうことだったのかとクリアになった」と振り返り、「この街の情景をイメージして撮影した部分を、長崎のみなさんが気づいてくださればうれしいです」 と期待を込めました。制作にあたり、長崎の被爆者の方々に取材を行ったことに話が及ぶと、監督は「実際にお会いし、お話を聞くことは、文献で読むのとは全く異なっていました。あの時の感情を今も鮮明に覚えています」と打ち明けました。
撮影の裏話について
今作で長崎弁のセリフに挑戦した広瀬さん。「性別や年代ごとにニュアンスを変える指導があり、普段のようにアドリブが利かなくて苦労しました」と苦笑しつつ、「でも方言の響きは愛らしく、肌馴染みがよかったです」と笑顔を見せました。
一方、吉田さんはイギリスでの撮影と英語のセリフに挑戦。撮影の半年前から、ダイアログ・コーチ(外国語のセリフ習得のため発音や表現を指導する専門職)から発音矯正やセリフの指導を受けたこと、また、撮影の1カ月前にはイギリスに渡航し、ホームステイをするなど、今作に合わせ行った挑戦を振り返りました。
イギリスで実際に暮らしたことで、役づくりにも深みが出たと話す吉田さん。「硬水なので、毎日シャワーを浴びるだけで髪がバサバサになります。加えて、イギリスの方は、どんなに小さなアパートメントでも、ミニガーデンを作って、草花を愛でる日々を送っているんです。そうすると、やはり日焼けもしますし、シミもできます。なので、あちらのヘアメイクさんに悦子を作っていただく時、『この日焼けと髪のバサバサは残してください』とリクエストしました」と制作の裏側を明かしました。
公開に向けて
舞台挨拶終盤では、馬場裕子長崎県副知事、鈴木史朗長崎市長、明石克磨長崎県観光連盟専務理事からメッセージが送られました。
最後に広瀬さんは、「長崎県のみなさんの希望になるような作品になったらいいなと思います。みなさんを先頭に、この映画をどんどん大きくしていっていただけたらうれしいです」と希望を込めました。
吉田さんは「この映画はカズオ・イシグロさんの記憶の中の長崎を描いた作品ですので、いろいろなところに余白があります。その余白部分は実際に長崎に住んでいらっしゃるみなさまの記憶や思いで埋めていただいて、みなさんそれぞれの映画に仕上げていただけたらうれしいです」と客席に語りかけました。
石川監督も「戦後80年が経ち、原爆や戦争の記憶がどんどん遠くなっていく中で、今を生きる僕たちがその記憶をしっかり受け取って、新しく語り直さないといけないとカンヌでイシグロさんからもお伺いしました。この作品はその思いを込めた映画です。(吉田)羊さんがおっしゃったように、いろいろな解釈で埋めていただければうれしく思います」と強調し、熱気に満ちた舞台挨拶を締めくくりました。
映画は2025年9月5日から全国公開。県内ではTOHOシネマズ長崎、ローソンユナイテッド・シネマ長崎、佐世保シネマボックス太陽にて上映されます。
ストーリー
タイトル:遠い山なみの光
公開:9月5日(金)TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー
キャスト:広瀬すず 二階堂ふみ 吉田 羊
カミラ・アイコ 柴田理恵 渡辺大知 鈴木碧桜
松下洸平 / 三浦友和
監督・脚本・編集:石川 慶
原作:カズオ・イシグロ/小野寺健訳「遠い山なみの光」(ハヤカワ文庫)
配給:ギャガ
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