ながさきプレスWEBマガジン

  • 第26回 「自然のままの昆虫の姿に、感動!たびら昆虫自然園を訪ねて。」

    春です。 昆虫たちも、おめざめです。

     日本のこよみには、春・夏・秋・冬をさらに細分化した、「二十四節気・七十二候(にじゅうしせっき・ななじゅうにこう)」がある。一年を二十四に分け、それを更に約5日ごとの七十二の季節に区切ったものだ。中国に端を発する考え方だが、日本人は昔から、この七十二もの季節の移ろいに合わせて暮らし、またそれを愛でてきた。その二十四節気のひとつで、旧暦1月後半から2月前半、現在のこよみでは3月上旬頃にあたる季節が「啓蟄(けいちつ)」だ。よーく見ると、“虫”の字が入っているとおり、“大地が温まり、冬眠をしていた虫たちが穴から出てくるころ”、つまり虫たちの動きで春の訪れを知る季節を指す。
     というわけで、すっかり春の陽気となった今、旅先に選んだのは平戸市にある〈たびら昆虫自然園〉。この昆虫園、「えーっ、今回の旅する長崎って虫のハナシなの!? うげげ…ちょっとニガテかも…」という人にこそお届けしたい、すんばらし~い施設なのである!(自然と語気が強めに…笑)。何がそんなにすんばらしいかと言えば、昆虫たちを観察するスタイル。だって、“自然の中で、自然のままに”生きている昆虫たちを、解説員さんと共に見つけながら観察するんデスヨ!? そんな昆虫園、これまでに聞いたことがないし、実際、このように常時解説員付きで、自然の中を散策しながら昆虫たちにふれる…という施設は、全国的にも珍しいそうだ。ケージで飼育された昆虫を、ガラス越しに見るだけでは得られない感動が、ここにあった。

    日本の里山を再現した たびら昆虫自然園

     〈たびら昆虫自然園〉が生まれたのは、平成4年。昔は昆虫の標本だけを並べた“博物館的”な昆虫館が主流で、やがて水族館の延長上に、生きた両生類や爬虫類、昆虫を展示する施設が増えていったそうだ。そんな中、ここ田平でも何か施設を作れないか、という話が持ち上がり、田平町で育った昆虫写真家・栗林慧さんらが、「屋外に昆虫園を作る」というアイデアを発案。こうして4.1ヘクタールの土地に、かつての日本の原風景であった畑や小川、池、雑木林、草はらなどの里山の環境を再現した昆虫自然園が誕生した。一見、雑然とした藪のように見える観察ゾーンも、多様な昆虫を観察するため、きちんとした設計図のもと環境整備されており、園内には田平に元々棲む昆虫のうち、3,000種類以上が生息しているそう。園外からの昆虫の移入は一切しておらず、本当に“この土地・この季節”の虫たちに出会えるのである。

    昆虫たちの“見かた”が変わる とっておきのイントロダクション

     それではいざ、観察へ出発! この日は時折雨がぱらつくあいにくの曇り空だったが、「大丈夫、虫たちはちゃんといますよ」と、園長の西澤さん。西澤さんは園の入り口でおもむろに土の入った箱を取り出すと、小豆ほどの大きさのコロコロとした土を手に、「さあ、においをかいでみて」と一言。クンクン…「あんまりにおいがしないです」と告げると、「フフフ、これはね、この子たちのウンコです」と、笑いながら土をかきわける。優しく拾い上げたのは、カブトムシの幼虫! 「先に“フン”と言うと、人は抵抗を持つでしょう? でも実際は臭くないし、こうした幼虫やミミズたちが草木を分解してくれるおかげで、ふかふかの黒い土ができる。“良い虫・悪い虫”というのは人間の勝手な価値観で、本当は全ての生き物が自然のバランスを保つ役割を持っているんです」。これこそが、〈たびら昆虫自然園〉が、まず虫たちと向き合う気持ちを整えるために行うイントロダクション! 虫がニガテな人も、この導入を体験すると、虫に対する抵抗感がぐっと少なくなるはず。それどころか、自然界で生きる彼らの役割や知恵に、感嘆してしまうほどだ。

    自然界を生き抜く 昆虫たちが教えてくれること

     ひとたび園内へ足を踏み入れれば、自然全体が観察対象。 花を摘んで蜜をなめたりして、身近な草花や木々の面白いウンチクも交えながら園を歩いてゆく。ひらひらと舞うモンシロチョウが、わずかに一瞬、葉にとまったのを見逃さず「今、卵産んだよ!」と、葉の裏に1ミリほどの小さな卵を発見したり、「これはテントウムシの“フリ”をしてるんだよ」と、ヤナギハムシという昆虫を見つけたり…。水辺に行けば、カスミサンショウウオの卵に、エビやタニシ、トンボの幼虫のヤゴや、タイコウチなどなど、観察対象がいっぱい! 通常、約1時間のガイドで、30~60種類程の生きものを観察できるそうだ。シャクトリムシなど、枝や葉っぱに擬態して隠れている虫を探すのなんて、大興奮! 「ほら、ここにいるよ~」と言われても、全然見つけきれず(笑)、やっと発見したあかつきには、「キミ、すごいなあ…」と、人間の目をもあざむく昆虫たちの生きる知恵に感心しきりだ。小さくもたくましく、自然の中でそれぞれの役目を果たしながら、持ちつ持たれつ生きている彼ら。この昆虫自然園は、そんな彼らと楽しくふれあいを通し、多くの発見や感動を、実体験をもって与えてくれる。GWのおでかけに、ぜひぜひ、ご家族で遊びに行ってはいかがでしょう。

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