ながさきプレスWEBマガジン

  • Vol.07 工房きのねの手織物

     朝晩が冷えるようになり、心地よい乾いた風や、金色に輝く柔らかな日差しに、秋の訪れを知るこの季節。厳しい冬までのつかの間の日々に、少しずつ少しずつ、色や手ざわりのあたたかいものを揃えて、冬支度をするのは楽しい。

     諫早市森山町。豊かな自然に囲まれたこの地に、〈工房きのね〉という、手織りやフェルトの作品を手がけるちいさな工房がある。工房には昔ながらの織り機や糸を紡ぐ機械、色とりどりの糸やフェルトがところ狭しと並び、つくり手の片山さんが奏でる織り機の音が響く。裏手には畑があり、農作物はもちろん、藍などの染色に使う植物や綿花が植えられている。―そう、片山さんの制作は、何と糸を紡ぐところから始まるのだ。絹や綿、羊毛といった素材を草木で染め、手で紡ぎ、それを手織りで仕立ててゆく…。ふわりと軽い一枚のストールに、何と気の遠くなるような時間と手間が含まれているのだろう。そんな驚きをよそに、片山さんは穏やかな表情で、ひとつ一つの工程を、いとおしむように進めてゆく。畑仕事も、糸紡ぎも、染め物も、機織りも。片山さんにとっては全てが「暮らし」そのもので、だからこそ続けられるのだという。

     〈工房きのね〉で生まれたものたちに、一つとして同じものはない。白にもたくさんの白が、青にもたくさんの青があるのだ。織りの組み合わせも無数にあり、縦糸や横糸の組み合わせでその表情はさらに無限に広がる。手にとって、身にまとって、毎日使って…。冬支度の楽しみが、またひとつ増えそうだ。

    つくり手:片山詠子 KATAYAMA EIKO
    長崎県生まれ。16年程前に機織りを始め、素材である糸を紡ぐことから、染色、フェルト制作などを学ぶ。現在は「工房きのね」として、自身のものづくりのほか、教室も行っている。

    工房きのね
    諫早市森山町慶師野1526 TEL:0957-35-2118 
    ※教室や工房見学については要問合せ
    ・写真のストール 20,000円

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