ながさきプレスWEBマガジン

  • 第8回 「雲仙市 惜梅亭」

     小浜から雲仙へ向かう山道の途中にひっそりと佇む、知る人ぞ知る名建築〈惜梅亭〉。昭和55年、カナダの町・バンフの要人を招待するため、また市民の交流の場とするために建てられた茶室だ。設計を手がけたのは、世界的建築家、ル・コルビュジェに師事した坂倉準三氏設立の「坂倉建築研究所」。工事は福岡県の宮大工が行い、粋を尽くした伝統的な数寄屋造りの茶室が完成した。築年数こそ30年程と決して古くはないが建築的価値は高く、岸信介元総理直筆による「惜梅亭」の書まで掲げられているほど。しかし、利用者の減少や老朽化、補助金削減といった苦難に飲まれ、取り壊しが検討されたこともあったという。

     「壊されなくて本当に良かった!」実際に惜梅亭を訪れると、誰もがそう思うはずだ。細部の細部まで、技と労を惜しみなく注がれた建物は、それだけで私たちの胸に迫るものがあるし、茶道がわからずとも、その心にほんの少しふれるだけで、日本の文化の素晴らしさに素直に感動する。秋には燃え上がるような深紅のもみじに包まれる惜梅亭。こんな場所が長崎にあったなんて…そんな驚きと喜びを感じに、ぜひ訪ねてほしい。

    日本人の心にしみる場所

    惜梅亭の演出は、「笹の小道」という茶室までの細い道から始まる。草木に視界を遮られた段々道を下ると、突然視界がパッと開け、建物が目に飛び込んでくる。憎いアプローチに、最初の感動。「つくばい」で手を清め、茶室という特別な空間へ向かう準備を。飛び石に沿って歩くと、「腰掛待合」があるので、客は亭主の迎えがあるまでここで待つ…。こんな茶道の作法を知っていればさらに楽しめるが、知らなくても自然と心が静まって、安らげるから不思議。日本人の心に響くのだろう。

    四畳半の宇宙

    いよいよ茶室の中へ。「にじり口」と呼ばれる小さな戸口から、身を屈めるように正座をして入るとそこに広がるのは非日常の世界。この小さな戸口が日常と非日常を分かち、どんな身分の人をも、頭を下げて入る一人の「客」として迎えるのだ。客に合わせて用意された茶碗や茶菓子、床の間や花瓶…そうした全ての小物に意味を持たせ、その粋な心を楽しみあう。わずか四畳半の空間が、亭主と客のコミュニケーションを通じ、宇宙のように広がるのだ。

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